昨年暮れ、何度か携帯の着信があり、ようやく繋がった途端、いつもとは違ったトーンの声で、彼女はまくしたてた。
エステサロンを一人経営している遠方の友人で、数か月に一度、お客さんが切れた時間に世間話電話をしてくる。
が、この日は正午から、何度か掛かってきていて、何か急用かな?と議案していたのだけれど。
高いトーンの声で、興奮気味、それも早口で‥私は口を挟めない。
借金が返せない
「夫の仕事が上手くいかなくて、借金が増えて、、返せなくなったの」
3年前に独立した彼女の夫は、工務店関連で、コロナ禍も影響したのだろう、事業が上手く回らずに、銀行やらカード会社や街金に借り続けて、ついに手一杯になったという。
借金の額は1000万円。数か月前から、バイトに出掛けているが、とても間に合わない。しかも腰痛が酷くて、肉体労働のバイトも続くかどうかわからない。御年63歳。
「そうなの、大変やったね・・借金取り立てが来てるのなら、自己破産も考えた方が」
「それしかないと思ってる。でもどうやって進めたらいいのか・・」
私は以前にフランチャイズ経営での詐欺に遭い、やっと黒字に転換した時に店を乗っ取られ、投資したお金も店も何もかも失う羽目になった。
まさかこんな事態になるとは・・自分の甘さにトホホだった。
弁護士に相談に行ったが、相手が悪すぎる(ずる賢こすぎる)ので、戦うにはかなりの体力が必要で、もう何回も裁判をしてきた私も50代半ば。
裁判にお金と時間を掛ける余裕は無い、何しろ明日の生活費も見通しが立たないのだから。
それから5年程必死で働いて返済し続けたが、体を壊し、区役所に相談に行ったら、自己破産を勧められた。
体調はどんどん悪くなり、起き上がれない日も続いていたので、もはやこれまでと白旗を上げることにした。
親切な区役所の職員さんに、「法テラス」を紹介してもらい、無料の弁護士相談を受けた。
破産処理だけなので、近くの女性弁護士さんに依頼した。
友人にも「法テラス」を紹介し、ホームページに弁護士紹介ページがあるので、そこから選ぶといいよと伝える。
「先月、夫から15万円生活費貰って、けど今月は貰えない・・どうしよう。うちは家賃5万だけど、ここ出ていくのは嫌って、夫には言ったのよ」
(それほど追いつめられていたのに、生活費をずっと15万円入れてた夫さんはエライ、なのに責めるようなことを言うのはダメやん)と心の中では感じたが、そういうこと言える雰囲気ではない。
「家の中の不用品を売ったら?ヤフオクとかメルカリで」
「不用品は何もない。処分してしまったし、ブランド品なんて無いし」
「普通の服でも、家具でも、本でも何でも売れるよ」
「私、ネット苦手だし」
「スマホで簡単にできるよ、旦那さんにしてもらえば」
「・・・」
「それか、保険は?生命保険があれば、借りられるよ」
「保険は二人とも解約したの」
「そうか、では何か仕入れて売れば?」とネットビジネスを色々と教えるも・・まるでやろうとする気配が無い。
それよりも、自分の窮状に突き上げられてるようで、思考が働いてないのかもしれない。
彼女は夫の保証人になってるので、彼女自身も自己破産せねばいけないと言い、
「離婚してもいいのだけど!」
なんて、それはなにもならないやろ!離婚しても保証人はそのままなんやから。
しっかりして、はっきりものを言うし、努力家の彼女を私は好きだし、強いと思っていたが、意外な面も見えてきた。大丈夫かな・・
切羽詰まったトーンは治まらず、ほとんど彼女がまくし立てた3時間以上の電話は、ようやく終わった。
破産費用が払えない
「お金のことが一番苦しいよね!」と何度も、彼女は繰り返していた。
そうだね~私も苦しかったわ、、明け方近くに目が覚めて、胸が重く痛いなか、「死にたい・・」と度々絶望していた、辛い5年の日々。
ある大雨が続いた季節には、うちの裏は山の麓なので、土砂災害の危険を知らされたが、猫たちを連れて逃げる場所も元気もない。
「この時に、土砂が降り注いで、家ごと埋めてくれたらどんなに楽か・・と思ったわ」と、お金で苦労している友人二人に呟いたら、二人とも「すごく、分かる・・」と痛く共感してくれたので、驚いた。
苦しい時、思うことは同じなんだね、人間は。
次の電話では、弁護士に相談に行ったが、弁護士費用と手続きで50万円と言われたと嘆く。
弁護士費用は法テラスで借りられるのだが、夫さんは法人経営なので、借りられないらしい。
次の弁護士に出向いたら、今度は30万円の提示。
「お金が無いから破産するのに、なのにお金が掛かるっておかしい、おかしい」
しきりに彼女は嘆く、嘆く。
法人は税金が安くなるという得点があるので、仕方がないのではと答えたが、納得いかないらしい。
結局、ぎりぎりまで持ち越してはダメで、手前で準備しなければいけないということだ。経営者は。
親戚や親も借りれる人は誰も居ないという。後は、夫の年金支給。
「前倒しで貰えるから、年金事務所に問い合わせたら?」
「夫にそう言ってるんだけど、もうノイローゼみたいになっていて、まだ行ってないの」
では、あなたが行けば?
申しわけないが、私は少しずつイライラしてきた。
行動しないと、解決策が見つかりませんよ。
地獄は乗り越えられるようになってる
正月に年始の絵葉書メールが届いて、「また話聞いてくださいね」とメーセッジ。
そのあと、年金の話の報告も全然無いので、メールしたら、
「風邪を引いて高熱がある」「体調が悪い」との返事。
ストレスがすさまじいのだろう、一応自然療法での治療は伝えましたが。
早まったことをしたら・・全く無いとは言えない恐ろしい事も頭をかすめる。
それにしても、たった3年の経営失敗で、こんなに追い詰められるとは。
夫さんはずっと会社員で、彼女は趣味程度でエステサロンをしただけで、普通に暮らしてこれたのだろう。こんな人ほどドツボにはまる。
これまで順調な人生だった50~60代の人が、大きな崖から落ちちゃうのを結構見てきた。
しかし皆、何とか踏ん張って生き残っている。
この世の地獄は乗り越えられるようになってる、人間は。
たまに一緒にお酒を飲むと、「えらい目に遭ったなぁ」と過去の失敗をつまみにしたりして、笑い合う。
順調だったころは、見えていなかった自分のあほさ加減や、人生の襞をひしひしと感じたりする。
それも良しとするかな。
友人夫婦も乗り越えるだろう、きっと。
数秘術には、9年ごとの年回りがある。
いい年、悪い年というのは無くて、種をまく年、育てる年、花が咲く年などがあり、その年を知ることで動きを決められる。
今度連絡が来たら、彼女たちの年回りを教えてあげることにする。
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